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タクシードライバー ほろ苦いデビュー当日 2020年4月某日

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私の属しているタクシー会社では、初日にベテランドライバーさんに同乗いただき1乗務だけ指導をいただきます。そして次回乗務から早々に独り立ちとなります。(同乗指導のないタクシー会社さんもあるのかな?)

というわけで2020年4月上旬いよいよ独り立ちの日です。

自分の乗るタクシーの運行前点検・外装の傷等の確認、その他乗務に必要な備品を準備します。そして点呼を終え、いよいよ出発。出庫する時は、会社職員さんが、出口で交通整備をしてくれます。いつ挙手なるか?どこを走ろうか?道は大丈夫だろうか?もう不安は尽きません。

そして私の出庫の番。

あれれ??皆、左折出場していくのに、私だけ何故か右折で反対方向へ行け。と誘導。右折はレーンを跨ぐので基本皆、左折出場します。なんで??

私:『すみません。私も皆様と同じ左折で出ますがいいですか?』

職員さん:『目の前にお客さん。手が上がってるんだよ、すぐ乗せてあげて。よろしく』

えーーーー!まだ心の準備もできてないのに。。。と考えている暇など無い。えーい、載せてしまえ。

 『どちらまで?はい。大崎駅ですね。。。すみません、道教えていただけますか??』

もうなんだか何がなんだか分からないデビュー初回営業でした。

そんなこんなで、もう怖いもの無しになり、スイスイ走り、どんどん載せて。コロナ自粛中真っ只中でしたが、お客様を乗せられる喜びを感じながら『なんだ、結構乗せられんじゃん!』と余裕の心構え。9回実車 8,800円となったところで休憩。

さてこの後は、どんなお客様がいるのかな?と想像しながら乗務再開。目黒通りをJR目黒駅から柿の木坂方面へすーーーっと走らせていると。。。

作業着姿の男性がふらりと道の中央に出てきて手をあげました。『ちょっとコワモテだなあ。やだなあ』今思えばそんな心が全て見透かされていたのかもしれません。車を止め、ドアを開け、挨拶もそこそこにお送り先を伺いました。これが悲劇の始まりです。

<<なんだ、結構載せられるんじゃん!!>>なんて思った自分が情けない。その思いは一瞬にして崩されたのであります。

あまりにも鮮明な男性とのやり取りであった為、未だにハッキリと鮮明に覚えているのでその時の内容を記しておきます。

  ●私:『おはようございます。お送り先はどちらになりますか?』

 ■男性客:『碑文谷まで』

  ●私:申し訳ございません、本日初乗務のためまだ道に詳しくありません。申し訳ございませんが。。。

 ■男性客:『なにーーーー!!お前、東京の道も知らないでなんでタクシーやってんだよ』

といっている間に見る見るコワモテな顔がさらに鬼のような形相に変わるではありませんか。もう私は蛇に睨まれたカエル状態。もう私は言葉にならない悲鳴のようなか弱い返事しか出来ない状態に陥ってしまいました。

その後は、男性の『いいから真っ直ぐ進め』の通り進み、道中ずっとお説教。。。申し訳ございません。その通りでございます。本当にすみません。おそらくそんな言葉の繰り返しです。

場所は目黒通り山手通り手前目黒駅側。そう、本当に真っ直ぐ進むだけです。しかし地理試験で出た交差点名とはいえ、いざ言葉に出されて行くとなるともう。。。

そして暫くすると『碑文谷』の交差点が見えるではありませんか。しかし男性の小言は終わらず

 ■男性客:『おい、お前人生舐めてねーか?どうなんだ』
  ●私:『いえ、決してそんなつもりはございません』
  (仮にナメててもナメてますなんて言えませんが。。。
    いや、ナメていたのかもしれません。それさえもお見通し??)

 ■男性客:『いや、絶対ナメてる。おいお前、クモスケって言葉知っているか?』
  ●私:『いえ知らなです』

 ■男性客:『知らねーのかよ。オメーラみてーなタクシー運転手のことを俺らはそう呼んでいるんだよ。俺はタクシー運転手がデーっキレーなんだよ!!』

心の中の私:”んん?あれもしかしてこの人、何かストレスが溜まって憂さ晴らししたいだけなのかな?”  ・・・何故か急に冷静になっている自分。しかし心臓はバクバクです。

    気を取り直してお客様に

  ●私:『お客様、碑文谷通過いたしましたがどこかお止めいたしますか?それともどこかを曲がりますか?

 ■男性客:『なんで碑文谷曲がらねえんだよ!!』。。。(げーーー!!マジで、真っ直ぐ進めって言ってたじゃーーん。という言葉はぐっと堪え)
  ●私:『大変申し訳ございません。一旦止まって引き返す道を確認します。』

 ■男性客:『どうやって確認するんだよ』
  ●私:本当に申し訳ございませんが、道を教えてください。』

 ■男性客:『ダメだ。自分の頭で考えろ。』
  ●私:『本当に申し訳ございません。私の頭で考えても、答えが出ません。地図を見ていいですか』

 ■男性客:『ダメだ。地図なんか見るなら俺が教えてやる。次の交差点を右に曲がれ』(あれれ?教えてくれるって??)

  ●私:『ありがとうございます。お願いいたします』

 ■男性客:『次の信号右!!、おい!なんでとまるんだよ。進めよ!』

  ●私:『申し訳ございません、信号が赤なので停止させてください』

 ■男性客:『おう、そりゃ止まるしかねーな。いいよ』(常識あってよかった)

 ■男性客:『そこ左に寄せて。そこでいい。』

私の心の中:”げげ!!3000円超えてる。大鳥居から碑文谷まで朝7時で??流石にお金払ってくれないだろうなあ。。。”

 ■男性客:『おい!いくらだ!!』
  ●私:『3380円です』(びくびく小声。。。)

 ■男性客:『4000円だ』
  ●私:『620円のお返しで。。。。あわわわわ(釣り銭を全て車内にぶちまける)
   申し訳ございません、拾わなくて結構ですぅ、もう一度お渡ししますので。』
  (震える手を懸命に堪えて、お釣りを作り直し、男性客に手渡し)
『ありがとうございました』(一応ここは精一杯の声で)

 ■男性客:『おう、ありがとう。』とそのまま一軒家の中に消えていきました。

え??ありがとう?あれだけ罵声罵倒を吹っかけていたけれど最後は”ありがとう”か。ムシャクシャするけど、何故かほっとするなあ。

距離にして3km弱の道のりを、コワモテの男性と約30分(日報 5:40実車、6:11降車)長い長い旅をしました。

▶︎デビュー当日

  ●営業回数:12回
  ●営業売上:20,700円
  ●総走行距離≒300km
  ●実車距離≒50km
  ●実車率≒16%

なんとも少ない数字ではありますが世の中、コロナ自粛の始まり2日目で一応売り上げも上げられた初回独り立ち乗務日でした。

 この碑文谷の男性のお客様から考えたこと。

  “最初の挨拶はベテランじゃ無いんだから、堂々と。新人らしくはっきりと!“

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